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とはいっても、こんなことを許したのは後にも先にも彼1人だから、比べる対象がいないのだけれど。
それでも・・・。
(うまい・・・よねぇ?)
小柄でしっかりものの女店主は、自分よりも頭1つ分は背が高い恋人にすっぽりと抱きしめられながらそんなことを考えていた。
唇と唇が軽く触れ合うだけなのに。
・・・それだけで、頭の芯が痺れて、理性が擦り切れるほど相手を求めてしまう。
もっと・・・優しいだけじゃなく、滅茶苦茶にしてほしいなんて、密かに願ってしまっていることをいったい誰が伝えられるというのだろう。
「顔が真っ赤であるが?・・・店主殿・・・?」
さも楽しげに、くくく・・・と喉の奥で笑うセイロンが憎たらしい。
手先が器用な彼の、最近しった新たな特技は今までの経験を物語っているようで…。
それにフェアが少なからず嫉妬しているなんて考えたこともないのだろう。
実はちょっと意地悪で憎たらしくって、だけど誠実で嘘がつけない最愛のひと…。
「あのねぇ・・・明日も朝早いですけど?」
フェアが言外に「ほどほどにして」という意味合いを含ませた言葉をため息まじりにこぼすと、「極力努力はしよう・・・であるからして・・・」と頭をさげてくる。
思えば最初から、正反対のふたりだった。
生まれた世界も、境遇も、考え方も・・・何一つおなじものなんてなくって・・・こんなことをする間柄になるなんて誰が予想できただろう?
・・・こんなにぴったり心地よく重なるなんて思っていなかった。
キスひとつ。
それだけで・・・日頃の気苦労もなにもかも吹っ飛ばせるくらい暖かな何かでこの胸は満たされる。
口づけひとつで。
昨日までは知らなかった新しい彼の一面をもっと知りたいという・・・貪欲さが生まれてくる。
きっと・・・こんなに自分をこんな気持ちにさせるキスができるひとなんていない。
「愛してる」
「好きだよ」
赤と蒼の視線が絡まって。
ふたり同時に言った言葉にふたりは声なく笑いあう。
そして・・・セイロンは慈しむようにその額に口づけをおとした。
【終わり】
拍手用に書いていた小話なのですが、どーにもしまりが悪いかんじがしたのでここに放置んぐ。(脱兎)
最近、このような日常系なごみ話(?)を書くのが好きです。
【sweet time】
「おはよう」というには、少し遅い時間に目覚めたら、いきなり猛烈な空腹感に襲われた。
乱れた髪を撫でつけながら、セイロンはキッチンへと向かう。
徐々にはっきりと聞こえだす微かな歌声が、寝惚けた耳に誰かの存在を確かめさせて、非常に心地いい。
しかし、その旋律が何であるのか気付いた途端、彼の眉が不機嫌そうに寄せられた。
何故って…その唄をうたっているときの彼女はいつでも…あることに熱中しているから。
ギィと、最近建付けの悪くなった扉を開けば、フェアが振り返った。
「あ、やっと起きたー?相変わらず寝起きがわるいんだから。って。…なんか爽やかじゃないね」
挨拶どころか返事も返さない男に、それでも慣れてしまっている彼女は特別気にするでもなく、中断した手元に視線を戻す。
唇から再び、先程の歌の続きが紡がれ始めた。
「…またそのようなものを作っておるのか」
如何にもだるそうに椅子へと腰掛け、背中をテーブルに寄り掛からせる。
がたりと音がして、テーブルの上に置かれた様々な物が、その衝撃に小さく揺れた。
「ちょっと、ちょっと!!零れちゃうでしょっ」
慌てて砂糖が入った容器を持ち上げたフェアが、唇を尖らせる。
スケールと計量スプーン、小麦粉に卵の殻、小さな紙型と搾り出し袋。
空高く上った太陽の光を弾いているのは、泡だて器が突っ込まれた銀のボールだ。
フェアは最近、お菓子作りに嵌っている。
もともと料理が得意で、食堂を切り盛りするほどの腕の持ち主だからそれは、味にはまったく問題がない。
それだけなら別になんでも無い事なのだが――――
「またあの童にやるのか?」
「あの子じゃないよ、あの子たち。カサスさん家のみんなに食べて貰うんだから」
――――先日、一連の騒動で知り合った蜂蜜色の髪をした細身の亜人と彼とともに暮らす子供たちにも嵌ったのだ。
と云うか、その『亜人たちにお菓子を食べさせること』に嵌っている。
「度が過ぎるといい加減、嫌がられるのではないかね?」
「むっ。そんな事ないよ~?だって、『フェアサンのクッキー、トテモ美味しいデス。マイニチ食べてもゼンゼン飽きマセン。アマッタラいつでももってきてくだサイ』って言ってくれたもの」
口調を真似して嬉しそうに微笑む姿を、見たくもないとセイロンはわざと反対側を向く。
「あんなに綺麗な顔のお兄さんが、たどたどしい口調で、そんな可愛い事云うのよ!!ほかの子たちも可愛くってねー、出逢ったころにあれだけ警戒されたのが嘘みたいなの」
「…顔が、孫を猫っかわいがりする祖母化しておるぞ…そなた」
子供(約1名は青年)が基本的に、甘い菓子好きなのは当然であろう。
あまり無作為に与えていると…そのうち虫歯になるぞ?
そうぶちぶち云いながら、セイロンがむすっとした顔をするのを見て、フェアがくすりと笑う。
「あらら?…妬いてるの?若さま」
「知らぬ。」
テーブルを回り込んで顔を明後日の方向に向けてしまったセイロンの前へ行く。
そして、子どもにするように、屈み込んだ。
吐息がかかるほどの至近距離で、覗きこめば、動揺に揺れる紅い瞳が誰よりも…愛しい。
「…莫迦ね。私はいつだって…貴方の虜なのに」
“嵌ってる”より“虜”の方が凄くない?
にこりと微笑んでから、チュッと啄むようなキスをして。
直ぐに菓子作りを再開させる。
「…最近、我の方が虜になってる気がするよ」
耳の端をほんのり染め上げたセイロンは、こっそりそう呟くと、降参とばかりに苦笑した。
朝食は冷えたトーストでも、大切な人が傍に居るから気にならない。
眩いおひさまの光が差し込む暖かなキッチンは、やがて甘い香りに包まれた。
ノーマルSS復帰記念といことで、とりあえず恐る恐る(またかよ)書いてみました。
話の時期的に、ED後でまだくっついていないころ。
久々に【普通の御話書こう】と意気込んだら、見事に玉砕したかんじです。
若さまが、微妙にシリアス感情で怖い・・・。
臆病者なので恐れ多くて、面と向かっては差し出せないのですが…個人的に、敬愛する【Sんしさま】に捧げたいです。【柴田淳の月光浴…空も好きです。】
月光浴
月灯りに白く浮かび上がる、シルエット。
この時間,彼がそこにいるのは,別段珍しいことではなかった。
「眠れぬのか?」
後ろ姿のまま、やや断定的に投げかけられた問いは、普段のこの時間帯ならば自室で夢の世界にいるはずの少女へのもの。
夜にふさわしく声の調子を抑えて、自他ともに認めるお節介な店主はえへへと照れ笑いを浮かべる。
「んー、そ…なんとなく。目が冴えちゃった。」
屋根の上で、1人酒を楽しんでいた居候の龍人は、闇の中で仄かに光る紅い瞳をフェアに向けると、ふふんと鼻を鳴らした。
「このような時刻に一人でふらふらと出歩くことは、関心せぬよ」
「セイロンだって一人じゃない。」
「我は男だが、そなたは一応女子、だ。」
「中途半端な男女差別、はんたーい。」
「…たわけたことを」
意外に説教好きな居候は、一人楽しんでいた月光浴を中断してフェアに歩み寄る。
吐息が感じとれるほど、近づいて見降ろしてみても娘は少しも動じたそぶりを見せない。
見かけだけ可憐でも、その小さな体には爽快と評したいほどの侠気が住み着いている。
今更、ほんの少し鋭い眼光を向けられたからといって、逃げ出すなんて行動は彼女の辞書にはのっていなかった。
さらさらと透明な月の光の降る下で、いつもより一層白く儚く見える彼の肌が余計に映える。
「店主殿?」
しばし、その美しさに無言のまま目を奪われていたフェアは、声をかけられた拍子に、ついつい思ったことを口にしていた。
「セイロンて…。」
「む?」
「セイロンて…色白いねぇ」
ぽつり…とフェアの口から洩れた羨望を帯びた言葉に、セイロンはピクリと僅かに眉を上げる。
「それは、褒め言葉か?それとも…貶し言葉かね?」
「うーん…半分ずつ?」
「ほう・・・。」
「でも!肌が綺麗で羨ましいのはホントのこと!」
ひくつく頬の動きを察知して、茶化した口調でおどけて見せて、頬をつねられるのを回避する。
反論しがたい笑顔を向けられて、一瞬閉口したセイロンだが、不意に目線をそらした。
その紅蓮の瞳が映すのは、夜空に広がる闇。
「…確かに。」
「ん?」
「確かに・・・我ら一族は、異様に白い肌を持つものが多い。」
「そう、なんだ」
「龍神と人の間に生まれた子の末裔として、長寿を授かったものの証なのだと、言われてきた。」
「ふーん…。」
「同時に、熱き血の通わぬ闇に生きる一族と…皮肉めいた蔭口をたたくものもおったよ…。」
「あ…ごめ・・・。」
「謝罪は無用だ・・・悪気はなかったのであろう?」
思わずしゅんとした娘の頭をぽんぽんと撫でながら、珍しく己の話をするセイロン。
自嘲気味に口の端をくっと曲げて笑う彼の脳裏に響くのは、故郷の里で幾度となく聞かされた恨み節。
必然かはたまた運命の悪戯か…長寿を得られなかったものたちの恨み唄。
龍神イスルギの寵愛を受け、時の流れから切り離されたものどもよ
自然の理に反旗を翻した罰なのか
永く生きれば生きるほど、命あるものの感情も血潮の熱も失っていく…呪われた血脈
血の色が差すことのことのない純潔なる肌は、その証
高潔なるも冷たい闇の中を生きる種族には…限られた時の中で生き抜く他者の心など…到底分るまい
「そなたも我が闇の世界に身を投じるか?」
「え?」
聞き取れないような吐息にもにた声が漏れたかと思った瞬間、詰められた間合い。
ひやりとした無骨な指が、フェアの喉にかけられた。
無駄な肉がないしなやかな、けれど優男な見た目とは裏腹に強靱な力を秘める、龍人の繊手。
突然の無体に、フェアの体はこわばるが、何故か叫び声すらあげられなかった。
否…その気持ちすらおこらなかった。
何故なら、微笑むでもなく正面から射るように自分の瞳を捉えるセイロンの切れ長の瞳が…今にも泣き出しそうな色を帯びていたから。
今、自分の前には、うさんくささを身に纏わせ、何が起きても「善哉善哉」で済ませようとする昼行灯は存在しない。
存在するのは、己には想像も付かないほど、長い刻を生きてきた者にしかわからない孤独と苦悩を抱えた…男の顔だった。
自分の首の骨は少し力を加えられれば、簡単に折れてしまうだろう。
そう冷静に頭で理解するのとは裏腹に、心の中に溢れてくるのは、場違いなる嘆息。
ああやはり…このひとには夜が似合う。
御世辞にも良い目つきとは言えないが…その奥に眠っているのは、案外温かい感情であることを知ったのはつい最近のこと。
まるで闇に愛された美しい月のようだと…。
いつしか紅い瞳に魅入られ…とろんとした意識の海の中で綺麗だ、とフェアは思った。
その妖艶な月に看取られて逝くならばそれもいいかもしれない…などと半ば夢心地で考えたのは、夜のせいか月のせいか。
頬を微かに撫でる指の感触がもたらす心地よい感触に、すっと目をとじたフェアの頭上で、ややあってからふっと笑う気配がした。
形の良い唇の端がつ…と上がったかと思った次の瞬間、フェアは額を指先でぱちんと弾かれて悲鳴を上げた。
「…やめておこう。」
「!!?いっ…たあっ!」
不意打ちの攻撃に痛さが倍増の額を押さえ、彼女は我に返ったように俊敏な動きで数歩後退る。
「いきなり…なにするの!」
「…そなたには似合わぬ。闇の眷属として求むるは、孤独で寂しい魂だけだからな」
「へ?…突然、人のおデコどついて言うセリフがそれですか!?」
「おお…痛かったかね?これはすまんすまん。」
「順番が逆ー!!」
「…あっはっは。そうだな…それこそが、そなただ。」
「???」
「…そなたは、我の眷属たるには…ちと、光に愛され過ぎる」
「もう・・・わけがわかんないよ!!」
噛みつかんばかりの勢いで突っ込みを入れてくるフェアの威勢の良さに噛み合わない返事を投げかけて、セイロンはさも愉しげに瞳を細めた。
くすり。
密やかな笑いを落とし、長い前髪を風に靡かせて踵を返す。
「セイロン?!話はまだ…」
「店主殿よ…深淵へ惹かれてはならぬ」
囁くように紡がれた言葉は、意味も形も正確にフェアの耳に届く。
「?」
「そなたは…死へ、破滅へ、絶望へ惹かれてはならぬ」
決して大きな声ではないけれど、その心地よい低音は夜の闇に響き溶けていく。
「いつでも光と希望と未来を望むがよい。そなたは…ずっと明るいところにいておくれ」
「・・・。」
屋根の端まで歩みを進め、振り返った龍人の表情は、背後の月光に暗く沈んでわからない。
ただ言葉だけが、直にフェアの心に響く。
「もう寝むがいい。そのような格好では風邪を引く」
反論も突っ込みも付け入る隙を与えなかった重い言葉たちが…妙に温かいと感じたのは、フェアの気のせいだったろうか。
ふる…と体に震えが走る。
「…っく、しゅんっ!」
「ほれほれ。言っておる傍から…困ったものよ」
明らかに呆れているとわかる声音で、セイロンは滑るようにフェアの傍まで戻ると、留め具をはずして自らの上着を剥いだ。
ふんわり。
そうして、フェアの袖たけにはどうしても余るソレを彼女の細い肩口にかける。
「わ! いいよいいよセイロンっ…大丈夫だから!」
「我はこうみえても頑丈であるからな。…まったく、いつも近くにおる世話焼きがおらんときぐらい、もう少し自重せい」
無理やりフェアの上半身を黒衣で包んで、セイロンは再びふん、と鼻を鳴らす。
「どこまでも世話の焼ける童だのう」
とんとん、と肩を叩いて促され、フェアは宿へ至る階段へ足を向けた。
遠くなる月と闇の気配。
「…そなたのような童には、月も闇も…背中で感じるぐらいがちょうどよいのだよ」
暖かい光に愛される魂は…月の慈悲も闇の安息も必要としないから。
「眠れぬ夜に必要なのは、闇の静けさでも月の清かさでもなく…人の温もり。それをよく…覚えておくがよい」
龍人は闇に生きる。
深閑たる天鵞絨の帳を揺らし、ただ一人、夜をゆく。
幾万もの夜を越え、己が身の上を素通りする時を偶さかに振り返り。
限りある命あるものの儚くも鮮やかな生き様に羨望の念を向けながら、気が狂わんばかりの孤独に1人耐えながら、竜に至るがために己の心身を限界まで研ぎ澄ます。
そこが彼に課せられた運命。彼の領域。
間違えようもなく温もりが存在する余地はない。
そんな救いようのない深淵に、一瞬でも『光』を取り込もうとしたのは…たんなる戯れにすぎない。
無意識のうちに彼女のぬくもりを求め、しでかした行為だとは…口が裂けても・・・決して云えない。
対極の存在に近しいものを傍に置きたいと思うことなど・・・所詮は過ぎたる願いなのだ。
「我は、共に眠るにはいささか冷えておるのでな。眠れぬそなたの役には立たぬ」
ふいに背後の気配が薄くなり、フェアは髪を揺らして振り返った。
「我が世話を焼くのはここまで、だ」
とん、と軽やかに、セイロンは地を蹴り身を翻す。
「そなたは、そなたを必要としている者どもの傍におるがいい」
ふっと穏やかに笑う彼から放たれた、静かな、けれど逆らえない声音がフェアを寝室へと押しやる。
「セイロン!…明日!ちゃんと返すから!」
「わかったわかった。だからもう戻るがいい。そなたに風邪など引かれると、我が、後々色々と面倒なのだよ」
ひらひらと扇を仰いで、言い捨てるとセイロンはテラスの向こうへ姿を消す。
夜風から護るように包まれた黒衣の裾をぎゅっと握りしめて、フェアはぽつりと呟いた。
確かに。
その手は自分より温かくはないけれど。
その肌の色は、一見血が通っていないんじゃあないかって思うほど、白くて冷たそうだけど。
掌を重ねあわせているうちに…あったかくなっていくこと、貴方は知っていますか?
過去のすべてをしっているわけじゃないけれど。
周りが何を云おうとも…私にとって貴方は、ただの胡散臭くて、暑苦しいくらいの侠気に満ちた義理堅い居候で大事な家族だっていつでも、思ってる。
「今夜眠れるのは…きっと貴方のおかげだよ。」
真円の月の仄かな灯が彼女を優しく照らす。
足下に伸びる長い影が、急激に戻ってきた正しい眠りの波を受けて、口元に手を当てた。
以上、普通SS復帰第一弾(になったかは、微妙)【月光浴】でした。
フェアさんが好きでたまらないのに、自分の中の真っ黒い闇(暗い過去・・・ねつ造しすぎだよ)を知られたくない、優しくて温かい【光】の化身である妖精の血を半分ひく彼女を己の中に引きずり込んではいけない…そういう余計なしがらみみたいな思いが強すぎて、手を出せないでいる若が書きたかっただけございます。
元ネタの唄を知っておられる方がいらっしゃいましたら、曲のイメージぶちこわしてすみません;