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タイトルとは裏腹に、以下、なかなかエグい話(流血ありーの、カニバリズム表現【人肉嗜食】)がくどくどと長ーく続きますのでそういうのが駄目な御方は、軽くすっとばしてくださいませ。
その小説と出逢ったのは、中学2年生のころ・・・。
学校の図書館で偶然出会いました。
本のタイトルは、「ひとめあなたに・・・」。
作者は、新井素子さん(←知っている御方いるかしら?SF作家なんだけど・・・すんごい癖のある(好き嫌いが分かれると思われます・・・空は好き)という独特な言い回しで文章をお書きになる小説家さんです。
代表作は「星へ行く船シリーズ」「チグリスとユーフラテス」「あたしの中の・・・」「おしまいの日」「グリーンレクイエム」「ブラックキャットシリーズ」など。
おもなあらすじは、えーっと・・・。
「あと数日後に地球にどでかい隕石(回避不可能)がぶつかるっていうニュースが世界中に流れるところからすべては始まります。(このへんの設定が彼女をSF作家と呼ぶ由来。だけど、お話の内容はいたって普通の人たちのお話が中心なんです。そこがわかりやすくって好き)なんかもう助かる見込みゼロで、日本中が半狂乱、交通機関や治安なんて一気に崩壊しちゃってます。そんな中、東京の練馬に住む女子大生圭子は、ひとしきり泣いたあと一人で歩きだします。とりあえず喧嘩別れしていた恋人朗がいる鎌倉へ向かって。地球が滅んでしまう前に・・・大好きな人にもういちど逢いたい、ひとめ逢いたいという思いだけで・・・。この物語は圭子と彼女が旅先で出会うさまざまな”狂った女たち”のお話」
みたいなお話なんです。
はっきり言って、「別れた恋人に逢いに行く女の子の話」といってしまえばそれまでなんですが・・・それだけなら、どこにでもあるようなはなしなんです・・・が!!
このお話の何が凄いかって・・・主人公が出会う”狂った女たち”の描写が半端ないところっ。
流血どばどば、のこぎりごりごり・・・な「ひぐらし」も真っ青なグロテスク表現がさりげなく多いところっ。
(本気で凄いんですよ・・・旦那を料理しちゃう奥さんとか、本気で「夢は現実。現実は夢」とか思っちゃってる女の子とか、世界が滅びて受験なんかないってわかっているくせにもくもくと受験勉強する女子高生とか・・・の描き方が、なんか生々しくって)
中でも空が一番「こ・・・怖いっ。これを20歳で書いていた新井素子さんの頭のなかってどんななんだろう?」って思ったのが、浮気した旦那を包丁で刺し殺した後、旦那の●●●を切断してビーフ(人肉)シチューにしちまった「貞淑」を絵にかいたような女:由利子さんのお話。
細くて色白で、大人しそうで可愛らしい主婦が、次第に壊れて・・・最後は旦那を●●しちゃう描写が何とも怖くて哀しくて・・・美しいです。
彼女はただ子供のころから夢見ていた「幸せなお嫁さん」になりたかっただけなのにね・・・。(旦那の言い分もわかるから・・・どっちが悪いとも言い切れない。難しすぎるぜ夫婦って)
何より哀しいのは、本人が自分が徐々に壊れ始めているのに全く気が付いていないところ・・・「超個人主義」で自由で孤独な人が多くなっている今の日本には、実際にこんな主婦がいそうだなぁと思ってしまうのは、空だけでしょうか?
(人殺しは肯定しませんが)
旦那の●●●を切って、血抜きして、炒めて、味付けして煮込んでっていう・・・お料理描写がリアルでまともに書いたら貧血沙汰になりそうな場面でも・・・不思議と吐き気を催さないのは、やっぱり作者の文章能力が卓越しているからだと、今ではわかります。
・・・で不謹慎な話なんですが。
このお話を読んでどうしても食べたくなるんです、ビーフシチューが。(あくまで「牛肉」ね)
中身はともかくとしても、食べ物の描写の最高に美味しそうなんですもの。(おいぃぃっどこまで食いしん坊なんだっ!?・・・半分冗談です)
まともな目で見ればかなり異常な光景を、ごく日常に還元してしまうところが新井素子さんの凄さ。普通にさらりと人肉シチューを作ってしまうところが天才のなせる業。
(それに、狂っている女を「狂気」とか「気狂い」とかいう言葉を使わずに、読者に感じ取らせることって本気で難しいと思うから・・・それができる作者はやっぱり上手いと思うんですよ)スプラッタ描写より何より、そういう女独特の陰の狂気が子供心にとっても怖いけど・・・つづきが気になって読んだのを覚えています。
主人公は、こういう感じの女性たちと出逢いながら、鎌倉まで旅をしていくんです。
時々「鬱」「自暴自棄」な状態に陥りながら・・・だけど、立ち止まらずに。
そこがまた・・・凄いと感じます。
ほんというと昔・・・中学生のころはね。
はっきり言って、お話中に出てくる女たちのインパクトが強すぎて、彼女たちに感情移入ばっかりしちゃってて(それもどーかと・・・)主人公はそんなに好きじゃなかったんですよ。
だけど・・・ちょっとだけ大人になってから読み直すと・・・主人公の「強さ」がわかる。
どうがんばってみても助からない絶望状態で、外を出歩くのも自殺行為な世界になったとき・・・はたして自分は、主人公とおなじ行動がとれるかな?
さらに追い打ちかけるみたいに、由利子さん的な人たちと対峙して「狂気」を容赦なくぶっつけられても・・・前に進むことできるかな・・・?
ヘタレな空だったら、どっちかっていうと、「もう・・・どーでもいいやぁっ」って投げだしちゃう気がします。
でもね、主人公はあきらめなかったんです。
(人によって「強さ」の基準は様々でありましょうが、老若男女関係なくぎりぎりの瀬戸際の土壇場で踏ん張ることができる人間っていうのが一番強いんだろうなぁって空は思います。)
たとえ仮に、恋人に逢えたとしても結末(世界が滅ぶ)は変えることができないって知っていても・・・それでも、恋人に逢いたいがために鎌倉までたどり着いたんです。
そこに感動した。
周囲の「狂気」に飲まれてしまえば楽なのに・・・「正気」でいるだけ辛くなる環境なのに・・・ただ「ひとめ恋人に逢うため」に進み続けた主人公の意思の強さに。
(行き過ぎた愛情は、時に人を狂わせます。だけど・・・その「狂気」に打ち勝つことができるのは・・・やっぱり「愛」なんだろうなぁって思いました)
ラストでやっと逢えた恋人と一緒に鎌倉の海を眺める主人公の気持ちがこめられた文章に胸が熱くなります。
何度読んでも泣けるし・・・「人を好きになりたい」って思えるようになるんです。
厚さ約1センチの小さな文庫のなかに、とてつもない衝撃がつまったこの本に出逢ったとき、当時中学生だった空は、なんていうかこう・・・鈍器で頭を横なぐりされたようなショック(いい意味でね)を受けたんです。
「人を好きになることって・・・綺麗なだけじゃないんだなぁ」
ってちゃんと考え出したのもその本がきっかけでした。
いやはや・・・本当にあの時の衝撃は大きかった。
それまで読んでいた甘い砂糖菓子みたいな可愛いらしさ満載の少女向け文庫小説の存在が、一気に霞む勢いで。(←これはこれで、いい持ち味があるけれどね)
まさに・・・これぞ「恋愛小説」の本髄だ!!って思ってしまったわけです。
その衝撃は、少なからず・・・空がお話を書くにあたっての根っこのところに大きな影響を残しております。
(それはいまでも、消えてません。それくらい・・・新井素子さんは、空にとって偉大な作家です。歪んだ感情とか誰もが胸の奥にしまっている繊細な心の波とか大事な人を愛しむことができる温かい気持ちとか・・・言葉で表現できにくいものを「美味しく」伝えてくれる才能って素晴らしい。)
そんな新井素子さんの「ひとめあなたに・・・」を、簡単に読める方法は現在の段階では図書館のみ。
(残念なことに現在は購入困難みたいです・・・やっぱり、内容が今の時代じゃシャレにならない内容だからかしら・・・?フィクションとして読めば面白いのにね;)
その他にもいくつか代表作がありますが・・・サイコ系なのもあるので、「暗さ」がだめな御方にはおすすめいたしません。
健康な精神状態のとき以外で・・・落ち込んでいるときに読んだら即「鬱」になること間違いなしですし。(「おしまいの日」とかね・・・本気で怖かった、アレは。流血、ゾンビ、幽霊、殺人鬼が一切出てこないのに・・・あそこまで主人公とともに読者を追い詰めることができる新井素子さんの才能は誰にも真似できないと思う)
精神的こわいものが大丈夫な御方は、御暇があればどうぞ挑戦してみてくださいませ。
あと・・・読書感想文ネタにするのはちょっと・・・っていう気もします。
中学3年生のころ、この御方の本(やっぱりサイコ系)で読書感想文を提出した空は、国語の先生に思いっきりひきつった顔(『お前・・・マジかよ!?』みたいな)されました。(酷いなぁー・・・今だったら、その気持ちがわかるけど)