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北風【東京魔人伝奇SS:蓬莱寺氏×女主さん】



どうにもこうにも、空が書く京一さんは女主に対して、紳士っぽくないです。

(きっと本命には、迂闊に手を出せないタイプだな)

北風(「私」はとある喫茶店のウエイトレスさんです)



不親切な説明

※1「ひーちゃん」~魔人の主人公な女の子緋勇龍麻の愛称

※2「京ちゃん」~蓬莱寺京一さん。どうにもこうにも好きなタイプとは正反対の女主が気になって仕方ないが、それを絶対に認めようとしない器用貧乏なお兄さん。





喫茶店に長いこと勤めていると、様々なお客さんに出逢う。

マナーのよいお客、悪いお客。

もちろん、たくさんのカップルも。

こっちが恥ずかしくなるような告白シーンを見た。

修羅場のような喧嘩や冷戦状態の関係も見た。

「幸せになりなよ」と拍手で見送ってあげたい幸せなプロポーズも、ハタ迷惑なベッタリカップルも。

そこには、映画やドラマでは到底敵わない・・・その人だけのドラマがある。

私は、仕事をする傍らでそれを拝見する傍観者。

さて・・・今日は、いったいどんなお客さんがやってきて・・・どんなドラマをみせてくれるんだろうか?





琥珀色の液体の ぷくぷくと発泡しているその様が 余程興味深いのだろうか?

さわり心地の良さそうな髪をした少女は、木製のテーブルに両肘をついて、じっと目の前に置かれたコーヒーフロートを見詰めていた。

その様子を眺めながら、彼女の真向かいに座った青年もただ黙って、ブレンドが注がれたコーヒーカップに口をつけている。



今、店内に流れているのは 静かな流行歌。

入ってきた時は、なんて騒がしいお客なんだろうと、正直思ったのだが。

急に静かになられても、何となく不気味な感じがした。



他にお客はいない。

高校生だと思われる、この一組の御客だけだ。



それにしても。

何故こんなに、興味が湧いてしまうのか。

まあ・・・どちらも風変わりな格好をして目が行ってしまうのは仕方ないのだけど。



少女は、今駆け込んで来たが為に乱れたとは 到底思えないような髪をしていた。

しかも、この寒い時期にも係らず、身につけているのは白のセーラー服と申し訳程度の防寒具というにふさわしい緑色のマフラーのみ。

暖房が利いた店に入ったおかげで、今はそのマフラーも取り去っているが・・・ここに転がり込んできたときは、見ているこっちが寒くなりそうな出で立ちだった。

だが、長めの前髪に隠されたその顔は、意外に整っていて・・・、自分が注文の品をテーブルに置いた際に「ありがとう」と言いながら向けてくれた笑顔は、同性から見ても愛らしいものだった。



対する青年は・・。

なんと表現していいのか。

とりあえずこちらも、真冬だというのに学生服を肘まで捲くっており、見るからに寒そうなお客さんだった。

日に透ければ金髪と見間違えそうな赤茶色の髪が印象的だが、鳶色の澄んだ眼差しがその辺で屯している若者にはない雰囲気を醸し出している。

傍らに抱えていた細長い濃紫の袋から察するに・・・武道でもしているのだろうか?

学生服からのぞいたその腕は、鍛錬に引き締まって見えた。



この2人の関係は何なのだろう。

休日の午後に、学生服で喫茶店に立ち寄る男女。

恋人?

ただの友達?

・・・普通に考えて出てくるイメージにはどうにも当てはまらない。

ウエイトレスという職業柄・・・さりげなくお客様の様子を観察し、その職業や関係を言い当てるのが得意になってきていた私にも察することに困窮するほど、この2人を包んでいる雰囲気は異様だった。



しかし。

何となく。

言葉にあてはめる関係ではないけれど。

あくまで直観だが・・・歳のわりには・・・大人っぽい・・・しっとりとした雰囲気が、この二人の間には出来上がっているように思えた。



私は、コーヒーカップを拭き上げながら、二人を眺め続ける。

今日はバイトの佐藤ちゃんは休みだと言ってたっけ。

彼女だったらキャーキャー云って、喜びそうなお客なのに。

そう独りごち、くすりと笑う。





「ねー京ちゃん。・・・コーヒーフロートの泡って見てて飽きないよね?」

透きとおった少し高めのトーンが、彼女の唇に乗る。



「・・・ん?泡・・・?なんで」

青年は如何にもつまらなさそうに、店におかれているグラビア雑誌に目を落としながら相槌を打つ。



「だって見てるとね・・・小さな泡がグラスに一生懸命しがみ付いているんだよ。震えながら・・・。 でも、ほんのちょっとの刺激で、手を離してしまったかのように浮き上がっちゃう・・・。人の運命みたい・・・だね・・・」



そこまで言いかけて、彼女はゆっくりと瞬きをした。

自らの意思とは関係無く、勝手に這い出そうとする不安げな言葉の数々を 無理やり口の中に封じ込めるが如く、顎を引いて。



ぱちんっ。

「にゃ!!」



寂しげな静寂は、小気味のいい指弾きの音と彼女の間の抜けた悲鳴で断ち切られた。

小さな額を抑えて涙ぐむ少女から察するに・・・どうやら、青年が彼女の額にデコピンをかましたようだ。



「い・・・痛いよ。京ちゃん。」

「莫迦いってんじゃねえよ」



恨めしげに見上げる少女の視線もなんのその、ぼそりと呟いてから、すでにぬるくなっているであろうコーヒーに、漸く口をつけた。

「・・・んな小難しいこと考える柄じゃねーだろ?」

「ひど!!」

「それに・・・お前はただの人だろ・・・?どこにでもいてちょっと常識外れなだけのただの食い意地のはった女子高生だろ?」

「・・・ますますひどい」

「・・・だから、そんな泡に、自分を置き換えるんじゃねーよ。」



青年の淡白なその言葉に、彼女ははっとした表情で顔を上げる。

そして。

「そっか・・・」と穏やかに微笑んだ。



喫茶店に長いこと勤めていると、様々なお客さんに出逢う。

もちろん、カップルも。

こっちが恥ずかしくなるような告白シーンを見た。

修羅場のような喧嘩や冷戦状態の関係も見た。

「幸せになりなよ」と拍手で見送ってあげたい幸せなプロポーズも、ハタ迷惑なベッタリカップルも。



だけど。

この2人は一連のカップルたちと また違う雰囲気をしていた。



2人に恋愛感情にあるのは、ほぼ間違い無いだろう。

一見彼女に対して粗野に見えるあの男の、何気ない仕草がそれを物語っている。



彼女のコーヒーフロートを飲む速度に合わせて、コーヒーに口をつける回数が変わっている。



(それを、きっとこの彼女は気付いていないのだろうな。)



他人事なのに、つい笑みがこぼれてしまう。



「ほら、さっさと飲めよ。そろそろ行かねーと・・・小蒔らにどやされんの俺なんだからな。」



飾り窓の向こう見遣りながら青年は少女を促す。



「あ、・・・うん。」

上に乗せていたバニラアイスクリームが、どろりと溶けていた。

綺麗に、白と琥珀とに分かれていた筈な物。

しかし、今は全て溶け合い混ざり合ったその液体を、彼女は流し込むように口にした。



「あう・・・美味しいけど・・・頭痛痛い・・・。」

「慌てて冷たいもん食うからだろーが。しまいには腹壊すぞ、ひーちゃん」

「だって、京ちゃん、さっさと飲めって云ったじゃないか。」

「ものには限度ってもんがあんだろ? 判んねえかな? ふつー。あーどっかの常識外れのお子様には判んねーか!」

「・・・・京ちゃんのその苛め方も、十分非常識だと思うよ。」

「高3にもなって、口の横に、アイスをくっつけてるひーちゃんの方が、よっぽど非常識だろ。」

「・・・む・・・今拭こうと思ってたの!」



止まっていた時計が動き出したように。

突然に2人はボケと突っ込みを繰り返し始めた。



青年がガタンと音を立てて、椅子から立ち上がる。

「今日、俺払うから、ひーちゃんは明日な。」

「え~~っ。どうしてそうなるの。」



ニヤニヤ笑いながら、隣の椅子の上に大事そうに置いていた濃紫色の袋をひょいと持ち上げる。



「硝子は離れてく泡に手を差し伸べてやれねーけど、人間はお互い協力できんだろ?」

・・・だから、取り合えす明日の昼飯な。

上手に片目を瞑ってウインクした彼は、容姿や言動とは裏腹に茶目っけたっぷりで・・・どうにもこうにも憎めない。

・・・あれが本来の彼なんだろう。

おそらく学校ではモテるに違いない。



年頃の女の子が見れば、一目ぼれしてしまいそうな絶妙な青年の表情を前に、少女はきょとんとしている。



私はそれを見ながら思わず微笑んでいた。

レジでしっかりとこの青年客の姿を見る。

「・・・お優しいですね。」

お釣りを渡しながら無意識のうちにそう云っていた。



彼は少し驚いたように意思の強そうな眉を上げ、そして。

顔に皺を寄せて、ニヤリと自嘲気味に笑い、答えた。

「っは・・・そりゃどーも。・・・ごちそうさん・・・美味かったぜ」



カランとドアベルの乾いた音を響かせて、二人はつむじ風がふく商店街へと駆け出して行く。

私はそれを見ながら、何とも云えない良い気分に浸っていた。

今時珍しいほどの、純粋で清々しい気分になれるカップル。

・・・そんな風に見えて。



つい口に出してしまった私の言葉は 彼女には聞こえなかったろうし、たとえ聞こえていたとしても それが一体何に対してなのかが判らない方なのだろう。



(あの彼の台詞だって、凄い告白の言葉なのに。)



もう一度、声を上げずに笑う。




あの2人の本当のところの関係は何なのか最後までわからなかったけれど。



それでも、あの2人の背中を見送る私の胸の中に1つだけ暖かな確信が芽生えた。



たとえ心まで凍てつかせるような北風に吹かれても。

震える泡を手放さないよう・・・。 

ずっとあの一緒に居続けるのだろう。

あの2人ならそれがきっとできるはず・・・そう思えた。

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